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AQG 324が4年ぶりの更新!DGS試験はどうなった

カスタム技術課の井手です
こんにちは。
カスタム技術課の井手です。

2025年4月に車載向けパワーデバイス規格AQG-324の最新版が公開されました。今回は特にDGS試験を例に、最新版での変更点に関してお話しいたします。DGS試験は、パワー半導体のSiC MOSFETを対象とした信頼性試験です。SiC MOSFETは、その電力変換効率の高さからエネルギー損失の低減が期待され、近年急速に市場を拡大しています。そのようなホットな製品の規格が4年ぶりに更新されたということで、パワーデバイスの知見を広めるべく、どのように変わったかを調査してみました。

なお、AQG-324は、欧州の組織により策定された車載向けパワーデバイスの規格です。WTIでは車載向け信頼性試験規格に準拠した試験について実施できる環境の構築を進めており、その中でDGS試験の環境構築など、AQG-324規格への対応に向けても取り組んでおります。

DGS試験とは?

DGS(Dynamic Gate Stress)試験は、主にSiC MOSFETを対象にした信頼性試験です。SiC MOSFETは、その電力変換効率の高さからDC-DCコンバータなどのスイッチング動作を必要とするアプリケーションに用いられます。高性能なデバイスである一方で、長時間使用する中でスイッチング動作による熱的・電気的なストレスにより、SiC MOSFETのゲート閾値電圧(VGSth)、ドレイン・ソース間のオン抵抗(RDS,on)が変動していく特性が見られます。DGS試験では、SiC MOSFETにゲートドライブ信号としてACバイアスを連続的に印加することでスイッチング動作させながら、VGSthRDS,onの変動を評価します。

この試験はさまざまな規格で規定されており、AQG-324における呼称が『DGS試験』になります。なお、JEDEC規格では『GSS(Gate Switching Stress)』、JEITA規格では『AC-BTI(Alternate Current – Bias Temperature Instability)』とよばれます。

AQG-324 DGS (Dynamic Gate Stress)
JEDEC GSS (Gate Switching Stress)
JEITA AC-BTI (Alternate Current – Bias Temperature Instability)
↓
すべて同じ試験!
※  ただし規格により細かい条件は異なる可能性があります。

 

2025年版AQG-324のDGS試験条件を調査!

それでは、DGS試験の条件について、2021年版と2025年版を比較してみましょう。試験中、SiC MOSFETのゲートには図 1のようなACバイアスを印加し続けます。またこのときの各パラメータの条件を表 1に示しています。
2021年版では、dVGS/dtは1 V/ns、オーバーシュートなし、ACバイアス周波数50 kHz以上と非常に厳しい条件でした。2025年版では、dVGS/dtは0.3 V/ns以上、オーバーシュート0.5 V以下、ACバイアス周波数25 kHz以上1000 kHz以下、と試験条件が緩和されました。
また、2021年版では規定がなかった不合格基準が2025年版では追記されており、VGSthまたはRDS_onが20%を超えて変動した場合、不合格となる規定のようです。

表 1 DGS試験の条件(一部抜粋).VGS; DUTのゲート・ソース間電圧

項目 2021年版 2025年版
ACバイアス印加回数 1011回以上 1011回以上(変更なし)
ACバイアス周波数 50 kHz以上 25 kHz~1000 kHz
dVGS/dt 1 V/ns
(オーバーシュートなし)
0.3 V/ns以上
(オーバーシュート0.5 V以下)
ONゲート電圧 VGS_MAX VGS_MAXVGS_MAX+0.5 V
OFFゲート電圧 VGS_min VGS_minVGS_min-0.5 V
不合格基準 - VGSthまたはRDS_on
20%超えて変動

図 1 ゲート-ソース間に印加するACバイアス波形イメージ
図 1 ゲート-ソース間に印加するACバイアス波形イメージ

 

DGS試験(AQG-324)に向けたWTIの取り組み

WTIは、信頼性試験を含む半導体評価サービスを多く提供してきたノウハウを活かし、DGS試験の環境構築に向けて準備しておりましたので、ここでご紹介します。この試験を実施する上で、抑えるべきポイントが2点ありました。

ACストレスバイアス信号のオーバーシュート抑制←H3タグ

2021年版AQG-324規格では、ACストレスバイアス信号の条件を『dVGS / dt = 1 V / ns』 かつ 『オーバーシュート無し』と規定しています。これは、対象デバイスのゲート入力容量にもよりますが、非常に難しい条件であると考えます。図 2.a は一般的なゲートドライブ回路にてドライブしたときの波形です。dVGS / dtを大きくすると、オーバーシュートも大きくなります。

WTIで準備したACストレスドライブ回路のドライブ波形(図 2.b)を示します。詳細は前回ブログを参照願います。(AC-BTI (GSS/DGS) 試験とは?,)。

図2  ACストレスドライブ回路のドライブ波形
図2  ACストレスドライブ回路のドライブ波形

尚、2025年版で改定されたDGS試験条件では、『dVGS / dt = 0.3 V / ns』『オーバーシュート、アンダーシュートは±0.5V以下』と定義されていました。2021年度版ではデバイスの実動作条件に対し厳しい条件でしたが、2025年度版では現実に近い条件に改定されており、規格の改定に関する理解も重要と思いました。

VGSthの測定方法

SiC MOSFETは、直前に印加されていた電圧によってVGSth測定値が不安定になることが知られています。そのため、VGSth測定値の安定性・再現性を確保すべく、測定前にコンディショニングと呼ばれる一定の電圧パターンを印加する処理が必要になります。
WTIは、LabVIEW-FPGAを利用したリアルタイム制御システムの構築を得意としています。WTI独自の制御システムを使用することで、DGS試験シーケンスを100 nsオーダーでタイミング管理しながらSiC MOSFETのVGSth変動を測定します。図 3は、トリプルセンス法と呼ばれる測定シーケンスで、タイミング制御の例です。試験シーケンス制御システムを自社開発していますので、規格に準拠しつつ、比較的高い自由度でお客様の要望に沿った評価サービスがご提供できます。

図 3 VGSthの測定シーケンス
図 3 VGSthの測定シーケンス

 

AQG-324含めた規格準拠試験に対する取り組み

AQG-324は、パワーデバイスの信頼性を証明する規格です。特に、DGS試験はSiC MOSFETの信頼性評価における重要な試験です。今回調査した2025年版のDGS試験条件は、実アプリケーションにおけるゲートドライバを意識した値で定義されたように感じています。SiC MOSFETはますます市場規模を拡大することが予想されることから、WTIは規格に準拠した試験環境を構築し、お客様の評価ニーズにお応えできるよう準備を進めております。ご不明な点やご要望がございましたら、お気軽にお問合せください。

 

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