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増幅デバイスの歪特性

みなさんこんにちは。高周波デバイス設計課の藤井です。

高周波増幅デバイスの性能指標はいくつかありますが、今回はその中でも特に通信用デバイスで重要な特性である歪(ひずみ)特性についてご紹介したいと思います。

図1に増幅デバイスの入出力特性の一例を示しています。横軸が入力電力、縦軸が出力電力、利得、通過位相となっています。ここで利得と通過位相に注目してください。入力電力が小さい領域では、利得、通過位相共に入力電力が変化してもほぼ一定の値となっていますが、入力電力が大きくなってくると、利得はだんだん低下していき、通過位相も入力電力が小さいときとは異なる値になることが分かります。

この入力電力に対する利得の変化(振幅の歪)や通過位相の変化(位相の歪)が、増幅デバイスの歪を表しています。

また、図1には図示していませんが、一般的に増幅デバイスの効率は出力電力が大きい領域の方が高いので、実使用ではできるだけ出力が大きい領域で使いたいのですが、そうすると歪が大きくなりますので、通信用途に使う場合は、通信規格で決められた歪の許容値以下となる範囲でいかに効率を高くできるか、という歪特性と効率とのトレードオフが重要になります。

 

 

図1. 増幅デバイスの入出力特性

 

さて、増幅デバイスの歪の大きさを測定するにあたり、よく使われる指標として、IMD(相互変調歪, Intermodulation distortion)があります。

これは、増幅デバイスに複数の近接した周波数の信号(基本波信号)を入力すると、基本波の近傍に入力信号とは異なる周波数のスペクトラムが現れ、その大きさが増幅デバイスの歪の大きさに依存することから、この現象を利用して増幅デバイスの歪特性を評価するものです。

図2に2つの周波数(f1,f2)の信号(基本波)を入力した時の例を示しています。このとき、出力には増幅デバイスが歪んでいるために、高調波(基本波のn倍の周波数の信号, 2f1, 2f2, 3f1,3f2・・・)が発生します。更に高調波は基本波とミキシングして、基本波信号の近傍に新たな周波数の信号を発生させます。2倍の周波数の場合だと、2f1-f2、2f2-f1 の信号です。

 

図2. 2波入力時のスペクトラム

 

これらはIM3(3次相互変調歪, 3rd order intermodulation distortion)と呼ばれるものです。実際にはさらに高次のIM5, IM7・・といった成分なども発生し、それらを総称してIMDと呼ぶのですが、図2ではIM3についてのみ記載しています。また図2では基本波信号近傍の周波数のみ示していて、高調波などは割愛しています。

f1とf2が近接している場合、IMDは基本波近傍の周波数に現れるため、実際の通信回路上ではフィルタ等で取り除くことが困難であり、通信品質に影響を与える可能性があるため、確認しておくべき特性項目の一つと言えます。

 

図3にIM3の測定結果の一例を示しています。図1に示した利得や位相の歪特性に対応して、出力電力が小さい領域ではIM3が小さく(=歪が小さい)、出力電力が大きくなるにつれてIM3が大きくなる(=歪が大きくなる)ことがわかります。

 

図3.  IM3測定結果例

 

最後に、IM3の測定方法をご紹介します。図4にIM3の測定系の一例を示しています。2つの信号発生器を用いて2波を電力合成器で合成した後にデバイスに入力し、出力スペクトラムをスペクトラムアナライザで測定することが一般的です。

 

図4.  IM3測定系

 

今回のお話は以上です。弊社には高周波の経験が豊富なエンジニアが在籍していますので、お困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。

 

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