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LNA(低雑音増幅器)の選び方 ~受信回路設計における選定指標~

第一技術部通信機器設計課の濱出です

みなさん、こんにちは。
株式会社 Wave Technology
第一技術部通信機器設計課の濱出です。

 
無線の受信特性に影響する重要部品の一つであるLNA(低雑音増幅器)について、”どのような指標で部品選定をしたらいいのかを教えて欲しい”とお客様からご要望をお伺いすることがあります。そこで、今回は受信回路におけるLNAの役割から、回路設計時の選定指標まで詳しくお話をさせていただきます。
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LNAとは? -高周波の受信回路のフロントエンドにおけるLNAの役割-

LNA(低雑音増幅器)とはLow Noise Amplifierの略であり、その名のとおり低雑音のアンプ(増幅器)になります。
LNAは高周波の受信回路のフロントエンドで主に使用されています。
アンテナで受信した高周波は途中の空間で減衰しているため、アンプで増幅する必要があります。その際、アンプで発生する雑音レベルが増幅後の信号レベルより大きいと、受信した信号が雑音に埋もれてしまいます。
これを防ぐため、高周波の受信回路のフロントエンドでは雑音の発生が少ないLNAが使用されているのです。

 

LNAの選定指標 -見落としがちな電気的特性-

多くの方はアンプの選定指標として、データシートの電気的特性から以下の3項目を主として選定されるかと思います。

  • Gain(利得)
  • NF(Noise Figure:雑音指数)
  • 消費電流

LNAの場合は上記に加えて以下のような受信特性に大きく影響する指標があります。

  • IP3(3rd order Intercept Point)
  • P1dB(Input or Output Power @1dB Gain Compression)

また、LNAには「ディスクリートトランジスタタイプ」と、「MMIC(monolithic microwave integrated circuit)タイプ」があります。ディスクリートトランジスタとはトランジスタ単体の機能をもつ単機能半導体素子であるのに対し、MMICはマイクロ波帯のミキサ、アンプ、RFスイッチ、受信素子などの部品をIC化したものです。
このように多くの選択肢があると、何に着眼して部品選定すべきかが難しくなってきます。選定する指標は、設計者の好み(メーカー、使い易さ、過去生産実績のある部品)もありますが、今回は私がLNAを選定する場合の3つの指標を詳しく説明します。

 

LNA選定指標その① -省電力の要求を考慮して選定-

省電力設計のご要求次第で、選定部品の回路の考え方が大きく変わります。
省電力のご要求がなければ、基本的にMMICを選定します。表1に示すとおり、設計作業と評価作業の時間を多く削減でき、量産時においても特性が安定するというメリットがあるためです。
省電力のご要求がある場合は、回路シミュレーションを実施するため、Sパラメータを入手できるデバイスを選定します。

表1 省電力要求の有無によるLNAの選定

省電力要求 LNAの構造 メリット デメリット
MMIC ・広帯域 ・設計が容易
・IP3、OP1dB大
・消費電流が数十mA以上
ディスクリート
トランジスタ
・消費電流を数mA~数十mAの範囲で調整可 ・設計、評価に時間を要す
・IP3、OP1dB小(消費電流小時)

 

LNA選定指標その② -NF、P1dBに着眼して選定-

NFが、可能な限り低いLNAを選定します。NFが大きいとGain、IP3特性が良いデバイスであっても受信品質が低下してしまうためです。
P1dBが、可能な限り高いLNAを選定します。P1dBが低い場合、妨害波でLNAが飽和してしまい、本来の性能を維持できない恐れがあります。

 

LNA選定指標その③ -Gain、IP3に着眼して選定-

IP3特性は、受信部の規格であり、受信IM特性(Inter-modulation)と呼ばれる規格に関連します。
受信IMとは、2波の妨害波が入力された場合でも受信できることの規格です。図1のイメージ図のように、2波の妨害波が入力されるとLNA内部で信号増幅される際に、信号が歪むことで不要なIM3(3rd Inter-modulation)が発生します。

図1 2波の妨害波を入力時のIM3発生イメージ図

図1 2波の妨害波を入力時のIM3発生イメージ図

続いて、IP3特性について説明します。
IP3とは図2に示すとおり、入出力特性がリニアに変動すると仮定した時の出力電力(Pout)の延長線(1倍の係数)と、IM3の電力がリニアに変動すると仮定した延長線(3倍の係数)の交点をいいます。
これらの関係から、IM3はレベルが小さいほど良く、IM3から算出されるIP3は可能な限り特性が良い (IIP3、OIP3共に大きい方が良い)LNAを選定します。

図2 Pin vs. Pout、IM3のイメージ図

図2 Pin vs. Pout、IM3のイメージ図

また、GainもこのIP3特性と関係があります。
同じ出力電力、IM3の電力が同じ特性であることが前提ですが、図3のとおり、Gainが大きいとIIP3が小さくなることが分かります。このことから、受信IM特性も悪くなります。
一方、Gainが小さい場合には所望の出力電力を得られない、及び後段デバイスのNFの影響が大きくなるなどの懸念が生じます。
LNAの選定では、この関係が一番悩ましい点ですので、受信部のレベルダイアを計算しながら検討します。

図3  Gain大時のIP3特性のイメージ図

図3  Gain大時のIP3特性のイメージ図

 

LNA選定指標 -まとめ-

以上の内容をまとめると、LNAの選定指標は以下の3項目になります。

  • 設計、評価の作業時間を削減するため、可能な限りMMICタイプを選定する。ただし、ディスクリートトランジスタタイプに比べて高価である場合が多く、量産コストに影響するため、コスト重視ではディスクリートトランジスタタイプを選定する。
  • NFは低く、P1dBは可能な限り大きいものを選定する。
  • Gainはレベルダイアから適切に選択し、IP3は大きいものを選択する。

LNAの部品選定指標について、お話をさせて頂きましたが、当社では、高周波関連のエンジニアが多数在籍しております。LNAに関わらず、高周波部品の部品選定や回路設計(回路シミュレーションを含む)、調整評価まで実施しておりますので、ご要望があれば、お問い合わせください。

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