みなさんこんにちは、通信機器設計一課の尾﨑です。
今回はEMI(電磁妨害:Electro Magnetic Interference)対策についてお話しさせていただきます。
電子機器の開発では、EMI対策がますます重要になっています。特にEMI試験で不合格になってしまった場合、どのような手順で原因を特定し、効率的にリカバリーするかが開発スピードを左右します。
本ブログでは、当社が実際に行っている EMI対策の具体的な手順を工程別に解説します。EMIの基本から実践的なノイズ対策まで、EMI対策でお困りのエンジニアの方はぜひ参考にしてください。
EMI対策の前に押さえるべき基礎:そもそもEMIとは何か?
EMIとは、電子機器が発する電磁波が他の機器に悪影響を与える現象のことで、EMI規格はその影響を最小限に抑えるために設けられた基準です。電子機器を設計・製造するにあたり必須の規格となります
EMI規格一覧 国・地域とその特徴
EMI規格は、国際規格であるCISPRを元とし、国や地域ごとに異なる規格が適用されています。例えば、日本ではVCCI、アメリカではFCCが適用されており、各国で市場販売するためには対応するEMI規格を満たす必要があります。代表的な規格を表1に記載します。

EMI規格 電子機器別適用規格について
国や地域によって適用されるEMI規格が異なっており、それぞれの規格において対象機器によりさらに細分化されています。表2に各電子機器と適用されるEMI規格について記載します。

各国のEMI規格では規定されていない機器もあり、その場合は国際規格であるCISPR規格を適用しています。
EMI対策を成功させる手順のご紹介
それでは本題の当社で実施しているEMI対策手順の一部についてご紹介します。
Step1 EMIの現状把握
当社は3m法でEMI測定できる簡易電波暗室を保有しておりますので、まずは現状把握のためにEMI測定を実施し、どの周波数が規格値をオーバーするのか把握します。このとき、規格値に対してマージンが少ない周波数もピックアップしておきます。これは、測定環境によって必ず測定誤差がありますのでマージンが少ない周波数についても対策をしておく必要があるためです。
また、当社の場合「電磁波可視化システム」も保有しておりますので、このシステムを用いて特定した周波数のノイズが基板や筐体のどこから輻射しているのかを確認します。
Step2 EMIノイズ輻射要因の推定
Step1で得られたノイズ周波数や筐体、基板のEMIノイズ輻射ポイントの情報を基に、設計情報と照合します。
- 回路図
- 基板図
- 組立図 など
次に設計情報から基板上の発振源を一通りリストアップします。
- 発振子の周波数
- システムクロック、バスクロック など
- シリアル通信の周波数
- DCDC電源の発振周波数 など
この時、発振源を漏れなくリストアップすることが大切です。なぜなら、EMIノイズは必ずこれら発振源と関連があり、その周波数あるいは逓倍の高調波が輻射することでノイズとして現れているためです。
これらの作業によって、EMIノイズの要因となっている発振源を特定します。発振源が特定されると、その発振源に関連する設計情報をさらに細かくチェックしていきます。
- 回路上にEMIフィルタが挿入されているか?
- 基板パターン(配線)が不必要に長くなっていないか?
- 筐体においてノイズ周波数の波長が漏れる開口部が無いか?
など細かくチェックします。
このようなチェックから設計上の問題点を洗い出し、EMIノイズの輻射要因を推定していきます。
Step3 EMI対策案検討と対策効果の確認
Step2で推定したEMIノイズの輻射要因に対して考えられる対策を施します。その際、対策は輻射要因によって様々であるため、専門技術者による経験と知識を活かして考えられるフィルタやシールドの追加などを製品に反映します。
対策を反映した後に、再度EMI評価を行い、対策前に比べてノイズ対策の効果が得られているかを確認していきます。この時、考えられる全ての対策を施していることが大切です。EMI評価では、対策を反映する度に製品を分解して改造を実施後に再度組み立てて測定を実施することになりますので、非常に時間がかかります。そのため、個々の対策に対して個別に効果を確認していると対策効率が非常に悪く、開発スケジュールに影響を与えかねません。よって、最初に考えられる全ての対策を施して効果を確認した後、製品コストに影響する対策について、引き算(対策を削減)しながら効果を維持できるか確認していく方が効率的です。
なお、ノイズ対策は様々な問題が複合的に影響していることもあり、一度の対策では対策しきれない、または効果が得られないこともあります。その場合は、Step2に立ち返り、見逃しているEMIノイズの輻射要因が無いか再検証した上で、Step3の対策検証を繰り返し、最終的に規格を満足するまで追求します。
WTIでEMI対策、検討が可能な製品(例)
当社でEMI対策、検討が可能な製品は主に以下のとおりです。
民生機器、医療機器、舶用機器、電源装置(単相最大4.5 KVA※1)、無線通信機器など※2
※1 放射エミッション(最大20 A , 310 VAC(40~550Hz), 440 VDC)、
雑音端子電圧(最大16 A, 250 VAC(50/60 Hz), 400 VDC)
※2 現在、車載機器の測定に必要な設備は保有しておりません。
上記に限らずEMI対策でお困りの際は、お気軽にお問合せ下さい。また、当社では、自ら対策検討を実施されたい方向けに電波暗室やノイズ計測機器のレンタルサービスも行っておりますので、是非ご利用ください。(当社の専門エンジニアによるアドバイスもオプションで追加できます。)
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