こんにちは。カスタム技術課の傳田です。
車載半導体の信頼性を担保するために『AEC』というメジャーな信頼性試験規格が存在します。その中でも代表的なのが、集積回路向けの「AEC-Q100」と、ディスクリート半導体向けの「AEC-Q101」です。試験を担当される方の中には「AEC-Q100とAEC-Q101の違いは?」「どの試験項目を実施したら良いの?」という疑問を持つ方も多いかと思います。両者は単に対象デバイスに違いがあるだけではなく、想定する故障モードや試験設計の考え方にも違いがあります。本記事では、それぞれの規格の位置付けと主要試験項目を整理しながら、車載信頼性試験における評価設計の着眼ポイントを見て行きます。
AEC-Q100とAEC-Q101とは何か ― 車載信頼性試験規格の基礎
AEC規格の概要 -主要規格の体系
AEC規格とは、自動車業界で共通採用されている車載電子部品向けの信頼性試験基準の一種です。
なおAEC(Automotive Electronics Council)は、車載電子部品の信頼性基準を策定する業界団体です。
AEC規格は、車載用途に必要な加速寿命試験や環境試験などの試験項目や信頼性評価基準の標準化を目的としています。
主要規格は以下の通りです。
・AEC-Q100:集積回路(IC)向け
・AEC-Q101:ディスクリート半導体向け
・AEC-Q102:オプトデバイス向け
・AEC-Q200:受動部品向け
本記事では、Q100とQ101に焦点を当てます。

図1:AEC規格の体系略図
AEC-Q100とは ― IC向け信頼性試験規格
AEC-Q100は、車載用途で使用される集積回路(IC)に対して適用される信頼性試験規格です。マイコン(MCU)、アナログIC、電源IC(PMIC)、センサーIC、SoCなど、複数のトランジスタや回路機能を1チップに集積した半導体が対象となります。
本規格の目的は、車載環境における長期使用を前提とし、高温・高湿・温度変動などの厳しいストレス条件下でも機能と電気特性を維持できることを確認することです。そのため、単一の劣化モードだけでなく、回路動作状態を含めた総合的な評価が行われます。
また、使用環境温度に応じてGrade 0~3の区分が定義されており、想定される搭載位置(パワートレイン、エンジン周辺、車体制御、車室内など)によって要求条件が異なります。この温度グレードは試験上限温度や評価条件の設定に直接影響します。
以下では、適用対象、温度グレード、主要試験項目の順に具体的に解説します。
適用対象 -回路機能を集積した集積回路(IC)
AEC-Q100の適用対象は、1つのチップ内に複数の回路機能を集積した集積回路(IC)です。具体的には、以下のようなデバイスが該当します。
・マイコン(MCU)
・アナログIC
・センサーIC
・電源IC(PMIC)
・SoC
これらは単一機能の素子ではなく、多数のトランジスタや配線層を含む複雑な回路構造を有しています。そのため、評価はトランジスタ単体ではなく、「シリコンチップ+パッケージ」を一体とした完成デバイスとして実施されます。
温度グレード -使用環境と信頼性試験条件
AEC-Q100では、ICが使用される車載環境の周囲温度(Operating Ambient Temperature)に基づき、温度グレード(Grade 0~3)が定義されています(表1)。これは単なる分類ではなく、想定使用環境を明確化し、それに応じた信頼性試験条件を設定するための基準です。
表1:温度グレード(Grade 0~3)の定義

主要試験項目(例) -試験条件、判定基準
AEC-Q100では、半導体内部の時間依存劣化、湿度起因の腐食、温度変動による機械的疲労など、車載環境で想定される主要な故障モードを網羅的に評価します。以下に代表的な加速試験を示します。
1. HTOL(High Temperature Operating Life)
- 試験目的
高温動作状態での長期信頼性を評価し、時間依存故障(TDDB、エレクトロマイグレーション等)を加速的に抽出します。
- 代表的な試験条件
・周囲温度(Ta):125~150℃(Grade依存)
・印加電圧:最大定格の100%
・試験時間:1000時間
・動作状態:規定バイアス印加・動作モード指定
- サンプル数
・77個×3ロット
- 判定基準の例
・機能異常なし
・DCパラメータ規格内(例:±20%以内)
2. HAST(Highly Accelerated Stress Test)
- 試験目的
高温高湿環境下での腐食、イオンマイグレーション、絶縁劣化を加速評価します。
- 代表的な試験条件
・温度:130℃
・湿度:85%RH
・試験時間:96時間
- サンプル数
・77個×3ロット
- 判定基準の例
・リーク電流規定値以内
・機能正常
・外観腐食なし
3. TCT(Temperature Cycling Test)
- 試験目的
熱膨張差による機械的ストレスを与え、はんだ接合部やワイヤボンドの疲労破壊を評価します。
- 代表的な試験条件
・温度範囲:-40℃ ↔ 125℃
・昇降温レート:10~20℃/min
・保持時間:各端温度で10~15分
・サイクル数:1000サイクル
- サンプル数
・77個×3ロット
- 判定基準の例
・電気的特性規格内
・クラック・剥離なし(断面解析確認)
・機能異常なし
AEC-Q101とは ― 車載ディスクリート半導体の信頼性試験規格
AEC-Q101は、車載用途で使用されるディスクリート半導体に適用される信頼性試験規格です。対象は、MOSFET、IGBT、ダイオード、TVS、整流素子などの単機能デバイスであり、集積回路(IC)を対象とするAEC-Q100とは評価思想が異なります。
ディスクリート半導体は、大電流・高電圧を扱うパワー用途で使用されることが多く、電気的ストレスと熱ストレスの影響を強く受けます。そのため、逆バイアス耐久性、ゲート酸化膜信頼性、熱疲労耐久性など、素子構造そのものの健全性を重視した試験体系となっています。
また、AEC-Q100のような明確な温度Grade区分は設けられていませんが、試験温度や印加電圧はデバイス定格および接合温度(Tj)に基づいて設定されます。特にパワーデバイスでは、接合温度150~175℃を前提とした評価が一般的です。
以下では、代表的な試験項目とその評価内容を具体的に解説します。
適用対象 -単一機能を持つディスクリート半導体
AEC-Q101の適用対象は、単一機能を持つディスクリート半導体です。集積回路のように複数の回路ブロックを統合した構造ではなく、主として電力制御や整流、保護などの特定機能に特化した素子が対象となります。
具体的には、以下のようなデバイスが該当します。
・MOSFET
・IGBT
・ダイオード(整流・ショットキーなど)
・TVS(過渡電圧保護素子)
・その他パワーデバイス
これらの素子は、数十アンペア以上の電流や数百ボルト以上の電圧を扱うことがあり、電気的ストレスと熱ストレスの影響を直接受けます。そのため評価は回路機能の検証よりも、接合部、酸化膜、メタル配線、ボンドワイヤ、ダイアタッチ(ダイボンディング)など素子構造の健全性確認に重点が置かれます。
また、ICのようなパッケージ全体の複合機能評価ではなく、素子そのものの電気特性変動や破壊モードを精査することが主目的となります。特にパワー用途では、接合温度(Tj)が150~175℃に達する設計も想定されるため、逆バイアス耐久性や熱疲労耐久性が重要な評価項目となります。
このように、AEC-Q101は「回路全体の信頼性評価」であるQ100とは異なり、「素子構造とパワー耐久性の評価」に重点を置いた規格と位置付けられます。
主要試験項目(例) -試験条件、判定基準
AEC-Q101では、ディスクリート半導体の接合部、酸化膜、金属配線、接合材料などの構造健全性を確認するための加速試験が体系化されています。特に高温逆バイアス耐久性や熱疲労耐久性など、パワーデバイス特有の劣化モードを重視した構成となっています。
1. HTRB(High Temperature Reverse Bias)
- 試験目的
高温・逆バイアス条件下での長期信頼性を評価し、リーク電流増大、接合部劣化、酸化膜破壊などの時間依存故障を加速的に抽出します。
- 代表試験条件(例)
・接合温度(Tj):150℃
・印加電圧:定格逆電圧(VRRM)の80~100%
・試験時間:1000時間
・バイアス:連続逆方向印加
- サンプル数
・77個×3ロット
- 判定基準例
・リーク電流(IR)が規格値以内
・ブレークダウン電圧低下なし
・外観異常なし
2. HTGB(High Temperature Gate Bias)
- 試験目的
MOSFETやIGBTのゲート絶縁膜(酸化膜)の耐久性を評価し、TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)や閾値電圧変動を検出します。
- 代表試験条件(例)
・接合温度(Tj):150℃
・印加電圧:±最大定格Vgs
・試験時間:1000時間
・ドレイン/コレクタ:規定状態(オープンまたは指定バイアス)
- サンプル数
・77個×3ロット
- 判定基準例
・閾値電圧(Vth)変動が規格内(例:±20%以内)
・ゲートリーク電流規格内
・機能異常なし
※主にMOSFET特有の試験です。
3. IOL試験(Intermittent Operational Life)
- 試験目的
通電・発熱を繰り返すことで接合温度を周期変動させ、ボンドワイヤ疲労、はんだ層・ダイアタッチの熱機械劣化を評価します。
- 代表試験条件(例)
・接合温度変動幅(ΔTj):100℃以上
・最大Tj:150~175℃(デバイス定格依存)
・サイクル数:数千~数万サイクル
・通電条件:規定電流印加による自己発熱
- サンプル数
・77個×3ロット
- 判定基準例
・オン抵抗(Rds(on))増加率規格内(例:初期値比20%以内)
・Vf変動規格内
・開放・短絡故障なし
※IC(AEC-Q100)では通常要求されず、ディスクリート半導体(AEC-Q101)で重要視される試験です。
まとめ -AEC-Q100とAEC-Q101の違いを整理
AEC-Q100とAEC-Q101の違いを整理すると、以下のようになります(表2)。
表2:AEC-Q100とAEC-Q101の違いを整理

AEC-Q100は集積回路(IC)向け、AEC-Q101はディスクリート半導体向けの車載信頼性規格です。しかし両者の違いは適用対象だけではありません。評価思想、想定する劣化メカニズム、重視される試験項目まで体系的に異なっています。
そのため、規格名のみで試験内容を判断するのではなく、
- デバイス構造(集積回路か単機能素子か)
- 想定使用温度および接合温度条件
- 支配的となる故障モード
を明確にした上で評価設計を行うことが重要です。
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図2:環境試験設備
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