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キャリアの動きとダイオード特性の関係

こんにちは。電源設計課の久保です。

学生の頃よりも真面目に勉強しているのではないか、と勘ぐってしまうほどパワーエレクトロニクスの勉強中です。以前どこかで聞いた話によると、学生時代の勉強(受験勉強)は「わからないことを理解するためのプロセスを理解する」ために必要な経験だそうです。

勉強でもスポーツでも、何かしら困難に感じることを乗り換えてきた経験とは、非常に役に立ちます。現在勉強中のパワエレも、学生時代の経験がきっと役に立っているはずです。

 

今回は、パワエレの基礎である半導体デバイスについて、その内部のキャリアの動きを中心に解説していきます。

キャリアの種類と半導体

キャリアは正と負が存在し、正のキャリアはホール、負のキャリアは電子となります。キャリアが正の半導体をP型半導体、負の半導体をN型半導体といいます。これらは、真性(I型)半導体に不純物を添加(ドーピング)されることで生成されます。ドープされる不純物の量でキャリアの濃度が決まり、キャリアの濃度は半導体の性質に大きく影響します。

図1.半導体の種類とキャリア 
図1.半導体の種類とキャリア 

 

キャリアの動きとPNダイオードの特性

パワー半導体デバイスは、このP型半導体とN型半導体の組み合わせで構成されています。いくつかある構成の中で、最も単純な構造をしているのがPNダイオードで、P型半導体とN型半導体を接合しただけの構造をしています。しかし、単純な見かけに対して、このPN接合という構造は実に多彩な特徴を持っています。

 

PNダイオードの空乏層


PN接合の構造の中で最も重要なものは空乏層だと思います。PN接合の接合面では、ホールと電子が再結合することでキャリアが存在しない空間が形成されおり、この空間が空乏層と呼ばれます。空乏層の厚さはキャリアの濃度で変化し、キャリアの濃度が薄いほうに伸びていき、層が厚くなると耐圧が高くなります。 (図2参照)。

図2.空乏層の形成
図2.空乏層の形成

 

PNダイオードでは、順方向電圧を印加するとP型半導体側にホールが、N型半導体側に電子が流入し(①)、空乏層が狭くなります(②)。すると空乏層の電界によるポテンシャル障壁が小さくなり(③)、電子とホールが再結合して電流が流れるようになります。逆に、逆方向電圧を印加するとP型半導体側からホールが、N型半導体側から電子が接合部の外へ引き抜かれ(④)、接合部近傍のキャリアが減少するため、空乏層が広くなります(⑤)。するとポテンシャル障壁が大きくなり(⑥)、電流が流れにくくなります(図3参照)。

図3.印可バイアスによるダイオードの動き
図3.印可バイアスによるダイオードの動き

 

これがPNダイオードの基本的な特性で、使用する材質や不純物の濃度を調整すると、ダイオードの特性が変化します。中でも特徴的なのは、PINダイオードやファストリカバリ―ダイオード(FRD)です。ここでは最後にPINダイオードについて簡単にお話ししようと思います。

 

キャリアの動きとPINダイオードの特性

 

PINダイオードはP型半導体(P層)とN型半導体(N層)の間にI型半導体(I層)を挟み込んだダイオードになります。I層はキャリアのドーピング濃度が非常に少ないことから、I層全体がほぼ空乏層となります。そのためPINダイオードは高い逆耐圧を持つことが特徴です。

一方で、空乏層はキャリアが存在しないため電気伝導率が低下します。そのため、PINダイオードではライフタイム(電子がホールと結合するまでの時間)が長くなるようにして、I層内のキャリアの数を増やすことで、順方向に電圧を印加した際に、I層を通過してN層からP層に届く電子の数を増やし、電気伝導率が増加します(図4参照)。

図4.PINダイオードの構造とキャリア
図4.PINダイオードの構造とキャリア

 

キャリアのライフタイム

 

PINダイオードはライフタイムが長いことから、逆方向に印加電圧が変化したときにI層に存在したキャリアが元の層に戻るまでに時間がかかってしまい、逆回復時間(Trr)が長くなるという欠点があります。

逆回復時間とは順方向に印加した電圧が逆方向に変化したときに、オンからオフに遷移するまでの時間を指します。逆回復時間は損失の増大にも関係しているので、短いほうがいいとされます。(図5参照)。ライフタイムによる電気伝導率の改善と逆回復による損失は、トレードオフの関係となります。

図5.ダイオードの逆回復特性
図5.ダイオードの逆回復特性
 

PINダイオードの特性に関してまとめると、逆バイアス時にはI層が広い空乏層となるため端子間容量が小さなり、順バイアス時にはI層にキャリアが蓄積されるため直列抵抗が低くなります。このようにバイアスによって容量と抵抗が大きく変化する特性を利用して、高周波スイッチや可変減衰器などの高周波回路でよく利用されています。

 

次回は、もう一つのPNダイオードであるFRDとP型半導体を金属に置き換えたショットキーバリアダイオード(SBD)に関する特性についてお話しようと思います。WTIには高度な知識やノウハウを持つ技術者が多く在籍しています。電源回路の設計あるいは電源の評価などでご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

 

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